一般のみなさまへ
(思春期の方・保護者・教育関係者など)

日本思春期学会から一般のみなさま(思春期の方・保護者・教育関係者など)への情報提供として、このページでは、思春期の健康課題について解説します。

「月経痛(生理痛)がひどくて痛み止めが効きません」

月経中に腹痛を感じるのは当然と思っていませんか。実際、日本の思春期女性の実に7割が月経痛を自覚しています。そして、月経痛を感じている思春期女性の8割が、日常生活や社会生活に何らかの支障を訴えています。勉強や趣味特技の可能性を伸ばしたいこの時期に、周期的に来る痛みは、体にも心にも相当の負担になっていることでしょう。その一方で、月経痛を感じていても、誰にも相談できずに悩んでいる方が意外に多いのも事実です。月経痛のことをもっとよく知って、より適切な対応をすることで、より健やかな思春期を過ごすことができるかもしれません。

  1. 月経困難症の主症状・・・月経痛
  2. 月経困難症とは、月経期間中に起こる下腹部痛、腹痛を主とした症候群を指し、その他に、悪心、嘔吐、食欲不振、下痢、頭痛、いらいら、憂鬱といったさまざまな不快な症状を伴います。その原因から、原発性(機能性)月経困難症と続発性(器質性)月経困難症の2つに分類されます。
    原発性月経困難症とは、一見して子宮や卵巣など骨盤内臓器に痛みの原因となるような異常所見を認めない月経困難症をいいます。対して、月経痛の原因となりうる器質性疾患*を有するものを続発性月経困難症といいます。原因となる器質性疾患は様々ありますが、特に思春期で多いものとして、子宮内膜症と先天性子宮・腟形態異常が挙げられます。


    表 : 2つの月経困難症

    機能性月経困難症 器質性月経困難症
    原因 ・子宮の過収縮
    ・子宮発育不全
    ・心理的ストレス
    ・子宮内膜症
    ・子宮筋腫
    ・子宮腺筋症
    ・先天性子宮腟形態異常
    発症時期 初経2~3年以内 初経から5年以上後
    好発年齢 15~25歳 30歳以降
    痛みの起こる時期 月経初日~2日目頃の出血が多いとき 月経前4~5日から月経後
    悪化すると月経時以外にも生じる
    痛みの性質 痙攣性、周期性 持続性の鈍痛
    加齢に伴う変化 加齢とともに軽快 徐々に悪化
    治療法 ・対症療法(鎮痛剤、漢方薬)
    ・低用量エストロゲン・プロゲスチン配合(LEP)
    ・原因疾患の治療(ホルモン療法や手術)
    ・対症療法(鎮痛剤、漢方薬)

    女性医学ガイドブック「思春期・性成熟期編」2016年度版より


  3. 我慢せず、痛み止めは月経が始まる前から内服を
  4. 器質的疾患のない月経痛に対する第一の治療は非ストロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)などの鎮痛剤ですが、通常、飲み薬の鎮痛剤は、飲んでもすぐには効果が現れません。また、我慢して痛みが強くなってから内服しても、十分な鎮痛効果は得られません。逆に周期性が特徴である月経痛に備えて、月経が始まる1-2日前から鎮痛剤を内服し始めるとよりよい効果が期待できます。鎮痛剤の効果を最大限に生かして、月経痛を和らげましょう。
    その他、鎮痙剤や各種漢方薬(当帰芍薬散、桃核承気湯、当帰建中湯、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)も効果的で、鎮痛剤とともに組み合わせて使用することで痛みを軽減することができます。


  5. LEPをもっと知ろう
  6. 鎮痛剤の効果が不十分と感じている思春期女性にはLEP(低用量エストロゲン-プロゲスチン配合剤)が効果的です。LEPはOC(避妊用ピル)と同成分です。日本では、避妊用ピルと聞くと、まだネガティヴな印象を抱くかもしれませんが、一般的に月経が始まった思春期女性であれば安全に使用できる薬剤になります。LEPにより月経に伴う疼痛の緩和と出血量の軽減が期待できます。近年になり、保険適応のLEPが続々と登場し、副作用の軽減が図られており、また様々な投与法に対応していることから月経時期の調整も可能で、試験やスポーツなどイベントが多い思春期においては利便性が非常に高くなっています。骨成長への影響など導入時期に若干の注意が必要ですが、婦人科医師と相談しながら、自分に合ったLEPを選択することができれば、うまく月経と付き合いながら充実した生活を送ることができるでしょう。


  7. 月経痛は、子宮内膜症の予備軍・・・・そして将来不妊症の可能性も
  8. 月経痛が強い人は、将来子宮内膜症になりやすいということが分かっています。ただし、初期の子宮内膜症は所見に乏しくほとんど診断されません。一方で子宮内膜症は、ゆっくりと着実に進行する炎症性疾患で、月経痛などの関連症状を自覚されてから診断に至るまで、12年程度かかると言われています。子宮内膜症が進行すると、月経時の痛みは耐え難くなるだけでなく、骨盤全体の痛みに広がっていきます。そして、高率に不妊を合併してしまいます。
    月経困難症に対して症状軽減目的に使用されるLEPは、子宮内膜症の治療薬でもあります。月経痛がある方は早期よりLEPを使用することで子宮内膜症の予防が期待でき、将来の不妊症の回避にもつながるかもしれません。


  9. 一度、婦人科医師に相談を
  10. 適切な痛み止めの使用をしても、効果が不十分な場合には、他の治療を必要とする婦人科疾患が存在するかもしれません。その際には、婦人科医師による適切な診察を受けることが何よりも大事になります。ですが、思春期では、婦人科の診察はまだ早いなどと敬遠しがちかもしれません。
    よく「婦人科の診察=内診台での診察」などと思われているかもしれませんが、決してそんなことはありません。適切な診察方法を取れば、問診とおなかからの診察だけでも十分な評価が可能です。まず問診からは、「何歳頃に月経が始まった?」、「痛みが強くなってきたのは月経が始まってからどの位経ってから?」、「月経の量は?期間は?」「痛みの位置は?」など、いろいろな有益な情報が得られます。また、おなかからの超音波検査だけでも、腟、子宮、卵管、卵巣に病変があるか確認することは十分に可能で、必ずしも内診台での診察をしなければならないというものではありません。その結果を踏まえて、必要があれば、血液検査やMRIなどの精密検査を行って、正確な診断と適切な治療に結び付けていきます。
    婦人科はとても敷居が高いように思われるかもしれませんが、一度診てもらうと不安な気持ちも少しは楽になると思います。月経痛は我慢せず、気軽に近くの婦人科にご相談を。