一般のみなさまへ
(思春期の方・保護者・教育関係者など)
日本思春期学会から一般のみなさま(思春期の方・保護者・教育関係者など)への情報提供として、このページでは、思春期の健康課題について解説します。
「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)」
- HPV感染とは
- 子宮頸がんとは
- HPVワクチンのしくみと効果
- HPVワクチンの日本と世界の現状
- HPVワクチンの安全性
- 日本国内のHPVワクチンを取り巻く状況
ヒトパピローマウイルス(HPVと略します)は、主に性行為によって感染し、子宮頸がんをはじめとする多くのがんの原因となります。HPVに感染しても必ずがんになるわけではありません。子宮頸がんの場合、HPVに感染した女性のおよそ1000人に1人ががんになります。HPVには200種類以上のタイプ(型)があり、がんになりやすいタイプをハイリスクHPVと呼びます。HPV16型、18型がその代表です。子宮頸がんの約7割はこの2つのウイルスによって発生しています。
HPVは、ほぼすべての成人男女に感染したことがあると言われるほどありふれたウイルスです。普通の生活をしている中で、自然に感染してしまっています。感染しても症状はありませんので、自分では感染には気づきません。日本人の成人女性では、約3割がHPV16型もしくは18型は感染していると報告されています。
性行為とともに、誰でもHPVに感染する機会があり、たまたまHPV16, 18型やハイリスクHPVに感染すると、その後に子宮頸がんになってしまうリスクが出てきます。
日本では、毎年10000人以上が子宮頸がんになり、毎年3000人弱の女性が子宮頸がんで死亡しています。そして2000年以降、子宮頸がんの発生率は上昇しています。何よりも、子宮頸がんは40年前には50-60歳代の女性がなるがんでしたが、この20年くらいは30-40歳代の女性が最も多いです。最も若くしてがんになるのが子宮頸がんです。30歳代というと、これから出産するような年頃の女性の生命が子宮頸がんによって危険にさらされています。また治療では子宮を摘出する等で、妊娠できなくなってしまいます。思春期の皆さんのお母さん世代ががんで亡くなってしまうという現実があります。その原因がHPVなのです。
子宮頸がんには、がん検診があります。がんになる前の病気(前がん病変といいます)を見つけるために子宮頸部の細胞を採取する検査です。しかし、日本での子宮頸がんの検診率は30%前後であり、あまり受診されていません。さらに、がん検診で病気が見つかった場合も手術が必要となります(子宮を全部摘出する必要はありません)。その手術後に妊娠すると、赤ちゃんが早産で生まれてしまう可能性が、手術していない妊婦さんの約4倍となります。やはり、前がん病変にならないのが一番です。
HPVワクチン(子宮頸がんワクチンとも呼ばれます)は、HPV16型、18型の性行為感染を予防することができるワクチンです。既に感染してしまうと効果はありません。感染する前、つまり性交渉が始まる前にワクチン接種するのが一番確実です。最近登場した9価HPVワクチンでは、HPV16型, 18型以外のハイリスクHPVの感染も予防できます。これらのワクチンを16歳までに接種しておくと、若い世代の子宮頸がんの発症が約90%予防できたことが海外で報告されています。
HPVワクチンを筋肉注射により接種すると、血液中にHPVにたいする”抗体”が産生されてきます。HPVに対する抗体が子宮頸部や腟の表面に漏れ出てくるので、性行為のときに男性から侵入してきたHPVを捕まえて子宮頸部への感染を阻止してくれます。このワクチンの優れている点は、この抗体が血液中に長期間持続することです。HPVワクチン接種から14年経っても、HPV16型, 18型による前がん病変が発症していません。この効果はさらに長期にわたり、20-30年間続くとも推定されています。HPV感染や子宮頸がんの発症しやすい時期は、このワクチンによって感染を阻止できます。
HPVワクチンは2007年に世界中で承認され、使用し始められました。世界100か国以上で、学童期(12-16歳が多い)女子を対象にするワクチン接種が強く勧められています(定期接種ワクチン)。世界保健機関WHOをはじめ、多くの欧米諸国では、9価HPVワクチンを定期接種ワクチンとして推奨しています。日本では2013年から2価HPVワクチン、4価HPVワクチンの2種類が定期接種ワクチン(公費負担で接種できるワクチン)として使用されています。9価HPVワクチンも日本で使用できますが、現時点では定期接種ワクチンにはまだ導入されていません。
日本では、2013年にHPVワクチン接種後の起こったとされる多様な症状(機能性身体症状)について報道されました。そこで厚労省は、安全性を検証するためにHPVワクチンの接種を勧めることを差し控えるという方針を出しました。これを受けて、国内外でHPVワクチンの安全性に関する検証が行われました。その結果、日本で報道された症状は、HPVワクチンとの因果関係があるという根拠は一つもありませんでした。
国内では、安全性の検証や接種後体制づくりのために接種勧奨を控える時期が8年以上続きましたが、2022年4月からHPVワクチンの12-16歳の女子を対象とする定期接種(無料)の接種勧奨が再開されました。
子宮頸がんに関する情報や、HPVワクチンに関する有効性や安全性の情報が一般市民向けにリーフレットにまとめられ、HPVワクチンの接種券(予診票)とともに、2022年4月から12-16歳女子がいらっしゃるすべてのご家庭に、自治体から個別郵送されます。
さらに、接種勧奨差し控えの時期にHPVワクチンの接種機会を逃した女性に対するキャッチアップ接種(無料)が2022年4月から開始されます。1997年度(平成9年度)生まれから2005年度(平成17年度)生まれまでの9学年の女性のご家庭に、リーフレットと接種券(予診票)が個別郵送されています。ただし、3年間の時限措置となっています。なお、定期接種の時期に接種できず、その後に自費でHPVワクチンを接種された方への接種費用の償還も可能となりました。
一方、文部科学省が「がん教育推進のための教材」を改訂し、そこにHPVワクチンの記載が盛り込まれました。全国の小中高校においてHPVワクチンのことが授業で教えられることになると思います。