一般のみなさまへ
(思春期の方・保護者・教育関係者など)
日本思春期学会から一般のみなさま(思春期の方・保護者・教育関係者など)への情報提供として、このページでは、思春期の健康課題について解説します。
「オンライン(インターネット)ゲームがやめられません」
私自身もゲームが好きで、ついついやりすぎちゃうことがあります。女子はメールやSNSに依存しやすい傾向があると指摘されていますが、臨床現場で問題になりがちなのは男子の方です。多くの場合、オンライン(インターネット)ゲームに没頭し過ぎてしまい、生活に支障が出ています。ここではインターネットにまつわる問題の中でも、ゲーム依存に照準を当ててお話していきます。なお依存とは言いましたが、専門的には嗜癖(しへき)と表現すべきところです。ただ、嗜癖はあまり馴染みがない言葉かと思いますので、本稿では依存で通すこととします。
依存の問題は徐々に進行していきます。依存症の代表的な対象としてはお酒やドラッグ、ギャンブルが挙げられます。それらにはそもそも近づかず・使わずに生きていくこともできます。しかし、現代の生活はインターネットと無縁ではいられません。なので、正しい扱い方を身につけていくことが大切です。
—–オンラインゲームとはどんなものですか
オンラインゲームとは、インターネットなどの主にオンラインによるネットワークを利用したコンピューターゲームのことを指します。ここでゲームの歴史についても簡単に触れておきます。1970年代後半にインベーダーゲームが大流行しました。コンピューターゲームと言うと、当時は喫茶店などに設置された筐体(きょうたい)で遊ぶものでした。その後、家でも楽しめる家庭用ゲーム機が普及しました。2010年代以降、スマホと高速インターネット回線の爆発的な普及により、オンラインゲームが急速に成長を遂げました。場所や時間にとらわれず、手のひらからインターネットに接続できるようになったのは特筆すべき点です。スマホはもちろん、家庭用ゲーム機やパソコンを通じて、世界中のプレイヤーと対戦することができるようになりました。
—–オンラインゲームは昔のゲームとは違うんですか
オンラインゲームの多くは続々と新たなコンテンツが追加されるので、もうやることがない状態(例:クリアの条件となる最後の強敵(ラスボス)を倒した、図鑑をコンプリートした)に至ることがまずありません。eスポーツのように競技化されているゲームで好成績を収めようとすると、他のスポーツと同じく、たゆまぬ努力が求められます。ゲームが部活動として認められる学校も出てきました。オンラインゲームの中には独自のコミュニティを形成しているものもあります。現実のコミュニティと同じく、居場所にもなり得る一方で、人間関係に気を遣うこともあります。ゲームをやめられない原因になることもあります。ソーシャルゲームと呼ばれるゲームを中心に、低確率でレアアイテムが当たるくじ引き(いわゆる「ガチャ」)などで、現実のお金を支払う(課金する)ように仕向けられているものも多くあります。
—–ゲーム依存ではどのような症状が見られますか
ゲーム依存になると、生活におけるあらゆる物事の中で、ゲームが最優先事項だと位置づけられます。その結果、大量の時間をゲームに費やすことになります。ゲームをしていない間も、その事ばかり考えてしまいます。まず睡眠や食事が疎かになります。昼夜が逆転し、日中の活動にも影響が生じます。学業の面では成績の低下、遅刻、さらには不登校の原因になる恐れがあります。こうした悪影響に気づいていたとしても、なかなかゲームを止めることができません。海外では、不眠不休でゲームを続けて死亡した例も報告されています。課金するためのお金欲しさに、親のクレジットカードを無断で使ったり、非行に走ったりする可能性も考えられます。
—–ゲーム依存はどのように診断されますか
ゲーム依存は新しい概念であり、診断基準はこれから定められていく段階です。一例としては、米国精神医学会が2013年に発行した精神障害の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)で(文献1)、インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)が今後の研究のための項目として取り上げられました。その中では、(1)ゲームに心が囚われる、(2)ゲームをしないと離脱症状を起こす、(3)遊ぶ時間が伸びていく、(4)制御ができない、(5)他の事柄への興味を喪失する、(6)問題を認識していてもやめられない、(7)遊んだ時間などについて嘘をつく、(8)嫌な気分から逃げるために遊ぶ、(9)社会的危機や喪失がもたらされる、の9項目のうち5項目以上を過去12か月間満たすことが基準とされています。2018年に世界保健機関が公表した国際疾病分類第11版(ICD-11)では(文献2)、ゲーム障害(Gaming disorder)や危険なゲーム行為(Hazardous gaming)が新たに取り入れられました。
—–ゲーム依存の人はどれぐらいいますか
まだはっきりと分かっているわけではありませんが、世界の調査結果をまとめた論文によると、インターネットゲーム障害は十代の1.2%から5.9%に認められたと報告されています (文献3)。富山県内の小学4年生から6年生を対象に2018年に行われた調査では、ゲームへの依存が疑われる児童が全体の5.6%(男子7.8%、女子3.2%)いたと報告されています(文献4)。
—–オンラインゲームに何か規制はあるのでしょうか
インターネットを介した犯罪等から子どもを守るための法律がある一方、個人の利用を規制するような法律はまだありません。自治体レベルでは、香川県がネット・ゲーム依存症対策条例を2020年に施行しました。その効果については今後の検証が待たれるところです。子どものオンラインゲーム依存が社会問題となった中国では、政府が強固な対策を打ち出しています。2021年には、18歳未満の子どもが週末の一日一時間しかオンラインゲームができないよう、制限させる義務がゲーム業界に課されました。
—–どうすればゲーム依存を予防できるでしょうか。
デジタルデトックスと呼ばれるように、電子機器に意識的に触れない時間を決めておくのをまずお勧めします。身体を動かすクラブ活動や、塾、アルバイトに参加するのもいいでしょう。
以下は親御さん向けの内容になります。まず、スマホやパソコンはあくまで親の所有物であり、お子さんに貸し出しているという形を取るといいでしょう。その上で、使用上のルール(用途、時間、場所など)をお互いに納得できるように話し合ってみましょう。ペアレンタルコントロールという機能を使い、新しいアプリの追加や使用時間を制限しておくのもいいでしょう。誤って課金しないように、親御さんの生体認証を予め設定しておくといいでしょう。
—–ゲーム依存の治療が必要になったら、どこへ相談すればよいのでしょうか。
依存の問題が進行してしまうと、家族への反発が顕著になり、コントロールが難しくなります。そうなると第三者の介入が必要になってきます。全国の都道府県に設置されている精神保健福祉センターでは、依存症全般の相談を受け付けています(文献5)。
ゲーム依存は診断もそうですし、診療ガイドラインもこれから出来ていくところです。すべての医療機関で対応できる用意が整っているわけではありません。日本におけるパイオニアとも呼べる医療機関は、久里浜医療センターのインターネット依存治療部門です(文献6)。そこでは専門デイケア、入院治療、治療キャンプなどが行われています。同センターのホームページでは、全国で治療を受けられる施設を紹介しています。
たかがゲーム、いつでもやめられると思われるかもしれませんが、そう簡単にいかなくなってしまうのが依存の怖いところです。家庭内だけの問題と思わず、専門家にご相談ください。
文献1)米国精神医学会:DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き,医学書院,東京,2013
文献2)世 界 保 健 機 関:ICD-11ホ ー ム ペ ー ジ, https://icd.who.int/browse11/l-m/en 2021年11月21日アクセス
文献3)Sugaya, N., Shirasaka, T., Takahashi, K., & Kanda, H. (2019). Bio-psychosocial factors of children and adolescents with internet gaming disorder: a systematic review.
BioPsychoSocial medicine, 13(1), 1-16.
文献4)Yamada, M., Sekine, M., & Tatsuse, T. (2021). Pathological gaming and its association with lifestyle, irritability, and school and family environments among Japanese elementary school children. Journal of Epidemiology, JE20210365.
文献5)全国精神保健福祉センター長会:全国精神保健福祉センター一覧ホームページ, https://www.zmhwc.jp/centerlist.html 2021年11月21日アクセス
文献6)独立行政法人機構久里浜医療センター:インターネット依存治療部門 (TIAR : TREATMENT OF INTERNET ADDICTION AND RESEARCH)ホームページ,
https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/section/internet.html 2021年11月21日アクセス